【細川顕の JIU JITSU VOICE Vol.5】ミレーナ・カオリ選手インタビュー「学びと共有の場を」女子柔術ブートキャンプ(仮)2026年2月開催予定!

インタビュー

挑戦と成長の軌跡

パンパシフィック出場から見えた次なるステップ。静かなホテルの夜から始まる対話「もしもし、お疲れ様です。聞こえますか?」電話の向こうの声は穏やかで、どこか疲労の色を帯びていた。パンパシフィックの試合を終えたばかりの選手とのインタビューはホテルの一室から始まった。翌朝には帰国予定という慌ただしさの中で、今回の大会、そして今後への想いが率直に語られていく。AIによる記事作成が話題に上るほど、日常の中にテクノロジーが浸透している時代。そう、この記事は音声データをそのままAIに食わせてそれっぽく書いてるだけなのである。そんな雑談から始まった会話は、すぐに試合の話題へと移っていった。

新たな挑戦 ノーギへのエントリー

今回、「ギ(道着あり)」と「ノーギ(道着なし)」の両方にエントリーしていた。ノーギは彼女にとって比較的新しい挑戦だったという。「最近、国内でもグラップリング系の大会やイベントが増えてきていて、ノーギにも課題を感じていたんです。だから新しい挑戦として出場を決めました。」しかし、国内ではまだノーギの大会数が少なく、エントリーしても対戦相手が見つからないことが多い。実際、今回もエントリーしたものの相手が不在でキャンセルとなってしまった。「海外だったらもう少しチャンスがあるかなと思ったんですけど、今回は残念ながら試合できませんでした。」それでも、11月に予定されている「イーストジャパンノーギ」にも既にエントリー済み。現時点ではまだ対戦相手はいないが、出場の準備を続けているという。

ポイント獲得のためのパンパシフィック参戦

今回のパンパシフィック出場の目的は、世界選手権ムンジアルに出場する「ポイントの獲得」だった。「相手がいなかったのは残念でしたけど、ポイントをもらえるから、今回は取りに行こうと思いました。」その結果、階級別で54ポイント、オープンクラスで9ポイントを獲得。これまでの累計と合わせて合計105ポイントとなり、目標の80点をクリアした。「2023年のアジア大会からずっとポイントを積み上げてきたので、ようやく形になった感じです。」

アジアから世界へ マイッサ・バストスとの対戦経験

彼女の世界選手権への道のりは2023年IBJJFアジア選手権での戦いに始まった。その後も2024、2025年と継続的に参戦し、特に世界選手権ルースター級で6連覇中の「マイッサ・バストス」との2戦は大きな経験となったという。「マイッサ選手とは2回やって、すごく勉強になりました。見ているのと実際に戦うのは全然違いますね。」聴き手の側も、「あれがなぁ」と印象深く語るほど、激しくも意味のある試合だった。歴史に名を残すであろう偉大な選手との試合は大きな経験となって、彼女の中で視野が広がっているのが分かる。

海外勢への意識とムンジアルへの視線

次なる目標は、世界最大の大会「ムンジアル」だ。もう既にアメリカ勢や他国のトップ選手たちの試合を分析し、スタイルごとの対策を練っている。「スタイルの違いで戦い方が変わるので、映像を見ながら研究しています。」現在のライトフェザー級チャンピオンはAOJの史上最年少チャンピオンとなったミア・フレグラ選手。そのほかにも実力者たちが参戦予定で、熾烈な争いが予想される。>「女子は最近AOJの選手が多くて誰がどの階級に来るかですよね。アジアでエントリーしていたウォーレン・ハナコ選手もチェックしています。」

オープンクラスへの挑戦

パンパシフィックでは、オープンクラスにもエントリーしていた。当初はポイント目的だったが、「試合をしたい」という純粋な欲求が彼女を突き動かしていた。 「せっかく来たのに試合せずに帰るのは嫌だったんです。やっぱり試合がしたい。」その対戦相手は、ライト級の選手。階級を超えた戦いへの期待が高まっていく。

オープンクラスでの戦い——ライト級との真っ向勝負

オープンクラスでは、ライト級の選手との対戦が実現した。相手はオーストラリアのフランス・ブラヴァーロ。トーナメントの逆山にはADCCチャンピオンとして知られるアデル・フォルナリーノがいた。 「アデル選手とも戦いたかったんです。正直、怖さもあったけど、挑戦したかった。」アデルは、道着(ギ)ではなくノーギを得意とするタイプ。スピード、フィニッシュ力、そして十字固めやストレートフットロックなどの極めの鋭さが印象的だ。「彼女は全部の試合をほぼ一本勝ちで制している。去年もほぼフィニッシュばかり。でも、私はそういう相手とやりたかった。」

技術戦の攻防——バックテイクからクラブライドへ

試合序盤、彼女は引き込んで積極的にバックポジションを狙いにいった。Kガードからの展開で相手の背後に回り込み、クラブライドまで持ち込む場面も見られた。「最初はいい感じでバックまで行けたんですけど、力が違って押し切れませんでした。クラブライドまで行けたけどお尻が全然上がらない。」相手のフィジカル差を感じながらも、トップポジションを奪うチャンスを探る。クラブライドからの流れでスイープしトップを取るも、そこからのフランスのラッソーガードで苦戦したという。>「インスタ見たら、相手がラッソー得意だったんですよね。スイープされなかったけど、足を出したところで中に入られてベイビーボロみたいになって。」この流れからバックを奪われかけ、エスケープを試みるもそのままのフランスはサブミッションを仕掛ける展開へ。その瞬間、観客も一瞬息をのんだ。

予期せぬ形で決まった襟締め

「私は最初、チョイバー(アームバー)かと思ったんですけど、首が巻き込まれて…。あれは実際、襟締めでした。」映像でもチョークか関節かの判別が難しかったその場面。セコンドのチアゴ・ウエノも「入ってなさそう」とコメントしていたが、実際にはかなり深く入っていたという。「自分でもびっくりしました。下からのカントチョークのような形で、 首が巻き込まれてしまったんです。」結果は一本負け。しかし、この敗北を通じて彼女は大きな手応えと反省を手にした。「押さえ込みのスピードで勝負しても良かったかなと後から思いました。 でも、今回は相手が大きくても一番“やれる”と感じた試合でした。」

怪我を乗り越えて 膝の不安と冷静な判断

試合中、膝に軽い違和感を感じた場面もあったという。「ラッソーを巻いたときに少し違和感がありました。でも全然大丈夫でした。」もともと膝の怪我を抱えながらも、無理をせず冷静に対応。大きなダメージもなく、無事に大会を終えることができた。

一人優勝の複雑な感情 嬉しさと物足りなさ

パンパシフィックでは、同階級に対戦相手が不在だったため「一人優勝」となった。ポイントを獲得し、ムンジアル出場権を確保したものの、心境は複雑だったという。「正直、一人優勝はちょっと不完全燃焼でした。でも、ムンジアルに出られるのは素直に嬉しいです。」

6年ぶりのムンジアルへ——再び世界の舞台へ

ムンジアル(世界柔術選手権)への出場は、実に6年ぶり。最後に出場したのは2019年、その前は2018年のジュブナイルでの大会。青帯が最後の挑戦だった。「当時は2回戦で負けました。そのときの選手はもういないと思います。」6年という時間を経て、黒帯となり世界の頂を目指す。今回はライトフェザー級での参戦を予定しているが、ルースター級も一瞬検討したという。 「今はナチュラルライトフェザー。減量なしでちょうど良い。 ルースターも考えたけど、筋トレを続けてるから厳しいですね。」

次なる舞台——イーストジャパン選手権への意欲

ムンジアルを前に、11月の「EAST JAPAN」への出場も決定している。すでにポイントは十分に持っているが、さらなる上積みを狙う。「せっかくIBJJFが大会を開催してくれているので、出ないのはもったいない。 できるだけポイントを貯めておきたいです。」もしここでも優勝となれば合計ポイントは132点。来年のトーナメントの組み合わせに有利に働く可能性もあり、出場を重ねる価値は大きい。ただ、現時点ではエントリー数が少なく、対戦相手がいない状況。締め切りまで約3週間あり、韓国など海外からの参加に期待しているという。「やったことのない相手と戦いたいです。人が増えないと大会自体が成立しなくなっちゃうので、もっと出てほしいですね。」

アジア選手権を超えて——再び始まる本当の戦い

インタビューの終盤、話題は今後のスケジュールへと移った。ムンジアル(世界柔術選手権)まではまだ具体的な予定は決まっていないものの、彼女の意識はすでに次の舞台に向かっていた。「まだスケジュールは決まっていません。でも、ムンジアルに向けて準備を進めていきます。」筆者も「過去2回のアジア選手権の当たりが悪すぎた。マイッサ以外との試合も見てみたい」と振り返る。運にも左右された過去大会を経て、ようやく開かれた世界選手権への扉。「本当にいろいろやってきてよかったです。やっとここまで来たって感じです。」この“やっと”という言葉には、長い挑戦の積み重ねと、それでも止まらなかった努力の重みが込められている。そして彼女は静かに続けた。「ここからが本当のスタート。仕上げていくだけです。」

チームとしての挑戦——共に戦う仲間たち

11月のイーストジャパン、そしてその先のムンジアルに向けて、チーム全体の士気も高まっている。今回の大会で共にポイントを獲得した仲間たちも、次のステップに向けて動き出していた。「チアゴもポイント取ったし、(高杉)魁君と3人で頑張っていきましょう。」仲間と切磋琢磨しながら、個々の強さだけでなくチームとしての一体感を育てていく。その中には、常に柔術を通じて女性選手たちをつなぐ活動があった。

女子練習会の広がり

近年、彼女が主導している「女子練習会」は多くの注目を集めている。練習風景を紹介するYouTube動画も話題となり、柔術界における女性コミュニティ形成の一翼を担っている。「毎回盛り上がってきました。やっぱりああいう活動はどんどん続けていきたいですね。」こうした活動は、単に練習の場を提供するだけではない。柔術を通じて仲間が増え、世代や所属を超えて学び合う新しい文化を作り出している。

新企画「女子柔術ブートキャンプ(仮)」

2泊3日の集中トレーニングへそんな流れの中で、彼女は新たな取り組みを企画している。2026年2月の3連休(21日〜23日)に開催予定の「女子柔術ブートキャンプ(仮)」だ。「2泊3日でエアビーを借りて、16〜18人くらい泊まれる場所でやる予定です。 試合を目指す人向けの、コンペティション志向の内容にしたいと思っています。」このキャンプでは、柔術だけでなく他競技のレスリングや柔道の要素も取り入れる予定。すでにレスリング関係者(超大物)との調整も進んでおり、他競技との融合によってより実践的なトレーニングを目指している。「年明けくらいには発表できると思います。ゲストの参加が決まれば本当にすごいことになると思います。」指導者としてだけでなく、同じアスリートとして寄り添う形のキャンプを構想している。

女性アスリートのために 学びと共有の場を

「スパーリングだけでなく、技術の共有、メンタルの強化、試合への準備など、いろんな角度からサポートできる場所にしたいです。」彼女が語るキャンプの目的は、単なる強化合宿ではなく、女性選手たちが自分を高め合う“学びの場”であること。柔術・レスリング・柔道の垣根を越え、技術と経験を共有し合うことで、次世代の女子アスリート育成へとつながっていく。詳細は年明けに正式発表される予定で、参加希望者への案内も順次行われるとのことだ。「詳細が決まったらSNSで発表します。ぜひ多くの方に参加してもらいたいです。」

新しい一歩へパンパシフィックでの挑戦を経て、ムンジアルへの道が現実となった彼女。同時に、女子柔術の未来をつくる活動にも情熱を注ぐ姿勢は変わらない。次の試合、次の挑戦、そして次の世代へ。その歩みは静かだが、確実に世界へとつながっている。

Interview by Akira Hosokawa / 細川顕(JIU JITSU VOICE)

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