【細川顕の JIU JITSU VOICE Vol.11】アブダビワールドプロ 丹羽飛龍選手 試合後インタビュー「UAE勢の強さとAJPルールへの適応」

インタビュー

ワールドプロという大舞台を終えた直後、丹羽選手本人は準優勝という結果に「悔しいが、これが今の実力」と冷静に振り返った。感情の揺れに溺れず、現状を受け止める姿勢は、国際舞台を戦うトップ選手ならではのものだ。 今回のインタビューでは、試合前の状況から各試合の詳細、そして決勝に至るまでの流れを丁寧に語ってもらった。

第1試合 vs 山本博斗 (IGLOO) 5年ぶりの再戦――突然の組み合わせ変更と日本人対決

当初のトーナメント表とは異なり、当日になって急遽組み合わせが変更され、初戦は日本人同士の山本選手との対戦となった。 UAE大会では、軽量オーバーによる失格や直前の欠場によりトーナメント調整が入ることが多々あり、今回も例外ではなかったようだ。

試合は自身の引き込みからスタート。ワンレッグを起点にスイープを狙っていたところ、山本選手が飛びつき気味のキムラトラップを仕掛けてきた。そこからの回転で上を取り体勢はバック近い亀のような形に移行。 相手のキムラトラップを利用しつつ、基本形のアームロックへと移行して腕十字を極め、3分強での一本勝ちとなった。

第2試合 vs Omar Ali Alsuwaidi (AL Wahda Jiu-Jitsu Club Academy)

優勝候補オマー選手との激戦 前評判と実力――動きのキレが際立つ相手 2回戦の相手オマー選手は、AJP東京での優勝歴や、今年のIBJJFアジア大会でのアダルト黒帯ルースター級で圧倒的な強さで優勝している実績豊富なUAEのエースと言ってもいいトップ選手。身体能力の高さとバネの効いた独特の動きが特徴で明確に超強敵と言える存在だった。

試合は序盤から攻防激しくリードされては追いつく展開が続く。スコアは終盤に5-5の完全イーブンに。今回のルールでは同点でも最後にポイントを獲得した選手の勝ちになるルール。丹羽はオマーに同点に追い付かれた後でクローズドガードに捕まり、相手がワームガードに移行しそうな危険な局面を迎える。しかしトップからフットロックを仕掛けて相手の体勢を崩し、最終的にベリーダウンの形へ。 ここで1ポイントを獲得し 6-5。その直後、相手側の抗議によるマイナスも入り、最終スコアは7-5となった。 試合後の抗議と“道着問題” オマー選手は試合前、袖のベタつきでレフェリーから道着交換を求められていた。UAE系大会はたとえ地元選手でも選手への注意が厳しいこともあり、その影響で相手がレフェリーに抗議する場面もあったが、判定は覆らなかった。 この勝利で「ここを越えたなら優勝が見える」と強く感じたという。

準決勝 vs Gevorg Arutyunyan (ZR Team Association)

ゲーム性のぶつかり合い――ゲボルグ戦 未知の選手との対峙 3回戦のゲボルグ選手は情報も少なく、アルメニアのZRアソシエーション所属の選手。マスターカテゴリーにもエントリーしており試合経験も豊富な選手で実際に対峙すると、ルースターとは思えないパワーを持つフィジカルタイプだった。 試合はトップの丹羽に対しゲボルグがラペラを深く巻いた状態から強固にグリップを維持し、丹羽はなかなかガードを開けない展開に。しかし時間が進むにつれペナルティ(マイナス)が相手に重なり、スコアは4-0へ。 終盤にガードが開き攻められるも、全てを防ぎ切り、そのまま時間切れで勝利した試合だった。

決勝までの待機時間とセコンド業務

準決勝が昼頃に終わり、決勝は夕方。しかしその間は休息とはいかなかった。 後輩である熊田選手のトーナメントが重なり、セコンドにつく時間が続いたうえ、決勝進出者としての撮影や熊田選手の表彰待ちなどもあったため、ホテルへ戻る余裕はまったくなかったという。 会場に残り続けて身体を休めるどころか、丸一日動き続けた状態で決勝を迎えることになった。

決勝戦 vs Thalison Soares (The Academy Byron Bay)

決勝で対戦したタリソン・ソアレスとは、AOJで長く練習をともにしてきた仲でもある。黒帯になりたてのころはほぼ毎日のようにスパーリングをし、技術を共有し合う関係だった。 試合後も互いに言葉を交わし、オーストラリアに来る際には「泊まりに来い」と声をかけてくれるほどの良好な関係だという。チームは異なるが、アスリート同士としての信頼が根強い。

試合は引き込んだタリソンはデラヒーバアンダーから華麗なファーサイドへのワンレッグを仕掛けスイープ、その後は得意のボディロックパスでプレッシャーをかけ続ける。丹羽はその圧力をAOJでの練習経験から防ぐもののよい形を作らせないタリソンのトップゲームの対応に苦戦した。 本来は「上を取って攻めたい」という戦略を持っていたが、引き込まれる展開になり、思うように作戦を遂行できなかったという。試合はその後互いにマイナス1ずつ入り、実質的なポイントはスイープの2点が勝敗を分ける形になった。

UAE勢の強さとAJPルールへの適応──アジア最大級大会を振り返る

今回の大会を振り返るうえでまず印象深かったのは、UAE勢が見せた独自の強さである。ブラジル人選手とも異なる、明確な「別の強さ」がそこにはあった。丹羽曰くかつてパンナムの決勝で対戦し今回の62kg級を制したザイードを筆頭に、オマーの名が挙がったが、いずれも桁外れの身体能力と競技理解を備えていたという。 特に今年のIBJJFアジア黒帯ライトフェザー級で優勝しているカリードの存在は別格で、アジアで彼のパフォーマンスを間近に見た選手は口を揃えて驚きを語る。彼等は子どもの頃から柔術を続けてきたタイプではなく、高校生頃から始めた比較的 “歴の浅い選手” がここまでの実力に到達している点にも、UAEでは強豪選手が自然と集まる環境が整っており、海外修行を含めたサポート体制が非常に手厚い。グランドスラムを含む多くの国際大会へ出場できる環境が選手の経験値を大きく引き上げ、世界レベルの強さにつながっていると語る。

AJPルールへの徹底した適応と3か月の準備期間

今回の大会に向けて、飛龍選手は8月のJBJJF全日本終了後から約3か月間、AJPルールに特化した練習を続けてきた。ルール研究は兄の怜音選手が中心となって行われ、あらゆる試合パターンに応じた得点方法や展開の組み立て方を徹底的に解析。練習は常にルールを意識し、得点の “取り方” を身体に染み込ませる形で進められた。 その結果、AJP特有のポイントシステム──たとえば“後からポイントを取った選手が優位になる展開”や、“スイープ未遂でもアドバンテージで1点が入る状況”──を前提とした戦略が自然と身に付いたという。 しかしその反面、パンパシフィックで使用されるIBJJFルールに戻った際、腹帯の中に手をいれてはいけない、つまりパンツを掴めないことに違和感を覚えたほど、AJPルール寄りの身体感覚が“癖”になってしまっていたと振り返る。今後はルールの違いによる感覚のズレを修正する必要性を強く感じたという。 UAEの強豪選手たちはAJPルールを最大限に利用。フットロックでの得点、境界線を使った展開、そして同点でも最後にポイントを取れば勝利へとつながる組み立て。 パスガードを捨てて足を掴んでくるだけの“ゲーム的な動き”も多く、AXISやAOJのように真っ向勝負を重視してきた選手にとっては、戦い方そのものが大きく異なる感覚が残った。 相手は相当な研究とシミュレーションを積んでおり、「ルールに強い選手」という印象が特に強かったという。 今年のIBJJFアジア大会では、これまであまり出場のなかったUAE強豪選手が多数参戦してきた。オマー選手は身長・筋量ともに圧倒的で、ルースター級で戦っているとは思えないほどの迫力を見せた。 アジア圏で活動する以上、今後も彼らとの再戦は十分にあり得る。勝てば誰もが認める大きな価値があるため、次に対戦する機会は飛龍選手にとって重要な壁となるだろう。

来年に向けた海外遠征計画──アメリカ・AOJへの渡航検討とこれから

来年の計画として、アメリカ遠征を検討していることも明かされた。AOJに行く可能性も含め、海外での練習環境を視野に入れているという。 ただし、ヨーロピアン出場に必要なポイントが現状足りておらず、12月に海外大会へ出てポイント取得を狙うかどうかは悩ましいところだったが怪我の影響も考慮し、まずはコンディション回復を優先する方針だ。群馬での開催だったイーストジャパンを欠場した理由も怪我の回復を目的としたもので、無理を重ねて悪化させる選択肢は取らないと語った。怪我の回復を優先しつつ今後のプランは考えていくようだ。昨年末から日本に帰国しアクシス横浜を兄弟で引き続きジム運営をしながらも積極的にチャレンジし続けてきた丹羽飛龍の2025年。今回世界屈指の実力者と言えるオマーを撃破したことからその実力は世界の領域にあることを証明した。今後の更なる飛躍を期待したい。

Interview by Akira Hosokawa / 細川顕(JIU JITSU VOICE)

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