【細川顕の JIU JITSU VOICE Vol.8】ヨーロピアンノーギ 為房虎太郎試合後インタビュー「5試合で得た確かな経験」

インタビュー

ヨーロピアンノーギ初挑戦

「お疲れ様です。」 日本時間ではすでに深夜0時半。試合直後の疲労が残るなか、為房は静かに試合を振り返った。 「全然大丈夫です。問題ないです」と笑顔で語る姿からは、充実した試合内容への自信が感じられた。大会のYouTubeライブでは2回戦からの中継となっていたが、初戦はまさに完璧な試合運びだった。 1回戦vs Sean Mark Rigby(The MMA Academy Liverpool)アームドラッグからテイクダウンでペースを掴み圧倒 。

1回戦の開始直後、アームドラッグから素早くタックルに入り、テイクダウン成功。 序盤で2-0とリードを奪うと、その後は終始トップポジションを維持。 複数回のパスアタックを重ね、相手がカメの体勢に移行した瞬間にバックを奪う。 結果はテイクダウンとバックテイクを合わせて6-0。完全な主導権を握ったままの完勝だった。 「最初の入りから完璧に決まりました。調子はすごく良かったです」 本人がそう語るように、立ち上がりから動きのキレが際立っていた。

過去最高の減量成功と仕上がり

今回の大会は当日計量。 通常73kg前後から、約6〜7kgの減量を経て67kgクラスに仕上げた。 「今までで一番上手くいきました。当日計量ではダントツです」と本人も語るように、 これまでの経験の中でも最高のコンディションで試合を迎えることができた。 月曜日の夕方に現地入りした後は、スパーリングなどの実戦練習は行わず、 宿泊先(Airbnb)の前にある芝生スペースで軽く体を動かすのみ。 「1時間くらいゴロゴロしながら体をほぐしたり、バッシュを履いて感覚を整えていました」と、 リラックスと調整を両立するコンディショニングで試合当日を迎えた。 試合までは約3日間。 一度だけ時差の影響で眠れない夜があったものの、 「すぐに調整できました」と冷静に対応。 海外遠征の経験も豊富で、これまでにフィリピン、シンガポール、タイ、ラスベガスなどを転戦。 「10回までは行ってないと思いますが、結構行ってますね」と振り返る。 そんな中でも今回のヨーロッパ遠征は初。 「ちょっと怖かった部分はありますが、海外戦でのコンディショニングにはもう慣れてきてます」と語り、 経験が自信へと変わっていることを示した。

2回戦 vs Lorenzo Carlo Lopez Bernardi(Guigo JJ) 

続く2回戦の相手は、ノーギ・ブラジレイロランキング2位の強豪。 ブラジル人選手で、ADCC関連大会でも存在感を放つ実力者だ。 「トーナメントを見たときに、山場はここだなと思いました。こいつに勝てたらいけると」 事前にトーナメント表を分析し、明確に“最重要試合”として位置づけていた相手だった。 相手はシード選手のため1回戦を戦っておらず、 一方でこちらは初戦を終えて体も温まり、試合感覚もつかんでいる状態。 「動き的にも僕の方が良いと思ってました。」と本人は語る。

試合開始直後、カルロスは引き込みを選択。 それに対し、素早くパスアタックを仕掛け、アドバンテージを獲得。 「最初パスアタックでアドバンもらって、パスとニーオンベリーの形で2個入りました」 パスの流れから連続してアドバンテージを重ね、序盤からペースを握る。 相手は足関節、特にヒール系の攻防を得意とするタイプ。 「でも、全く怖くなかったです」と本人は語る。 その理由は、徹底的な事前リサーチにあった。 「映像を何度もチェックして、Kガードからのファルスリープ、飛びつき十字、リバースクローズ、全部想定してました。」 相手が得意とする攻防をすべて研究済み。 キャンピングパスからバックを狙う展開でさらにアドバンテージ3-0のリード。 終盤には立ちレスの展開へ移行。 「もうあの時は取られないと思ってました。立ちも全然大丈夫でした」 相手の飛びつき十字やリバースクローズへの移行にも冷静に反応し、 最後まで崩れることなく試合をコントロールし続けた。そのままタイムアップ。勝利の咆哮を上げて勝ち名乗りをうけ見事ランキング1位の猛者から完勝。大きな山場を乗り越えた。

3回戦 vs Spencer Jaspa Quayle(Absolute MMA Australia)

準々決勝を制し、勢いそのままに挑んだ準決勝戦。対戦相手はオーストラリア出身の選手スペンサー。オーストラリアの名門アブソリュートMMAでも活躍する実力者で、強力なガードワークと切れ味のある足関節で知られる選手だった。 スタンドの攻防から主導権を握る 試合序盤はスタンドの組手争いからスタート。相手はレスリングベースの動きを見せるものの、為房選手はその手応えを瞬時に読み取っていた。 「最初、結構レスやってくれたんですよね。組手争いとか。レスラーかなと思ったけど、そうでもなかった。」 レスリングを“頑張って練習したタイプ”と分析し、この時点で確信していたという。 「ここでバトルしてくれるなら絶対取れると思ってました。」 その読み通り、4つ組の状態から大外刈りのようなテイクダウンを成功させ、スコアを2-0とする。 相手の足関を警戒しつつ冷静に展開 テイクダウン後、相手はKガードを展開。これまでの試合でもここからのサブミッションでの瞬殺で勝ち上がってきたほど、足関節を得意とする危険なタイプだったが、為房選手は焦らず慎重に対応した。 「無理矢理取りにくるというより、丁寧に形を作ってエントリーしてくるタイプ。」 足関をしっかりと裁きながらプレッシャーをかけ、隙を見逃さずにパスガードからバックテイクへ。ここでスコアを6-0に広げる。以降は安全にコントロールを続け、リードを守りきった。

今大会を通じて、為房はあえてボトムを取らず、トップから展開する方針を貫いたという。 「基本はトップで行くイメージでした。足関のさばきでミスしたら潜る予定でしたけど、基本はずっとスタンドとトップで。」 練習で磨いた足関対策が功を奏し、一度も危険な場面を作らせることなく完勝。観客の視点からも“危なげない試合”と評される内容だった。

準決勝 vs Gabriel Antônio Teixeira dos Santos(Grappling Education)

準決勝ではまたもブラジル人選手と対戦。試合序盤、相手は力強いプレッシャーで一気に仕掛けようとしたが、為房はあえて受け流し、勝負のタイミングを見極めていた。 「最初、相手がめっちゃ力出してきたんですよ。だから勝負を急いでるのかなと思って、後半に勝負どころを持っていこうと。」 0-0の状態で慎重に様子を見つつ、足関をさばいて流れを作る。そして相手の動きが緩んだタイミングで、一気にパスからバックテイクへ。ラスト2分間、完璧なバックキープで4-0の勝利を収めた。 4試合を通して揺るがないペース配分 ここまでで4試合を戦い抜いたが、為房の体力にはまだ余裕があった。 「ちょっと張ってるところはあったけど、支障が出るような感じじゃなかったです。」 試合を通じてほぼすべての展開で主導権を握り相手の足関を無力化し、自身のペースで試合を組み立てる姿勢が際立っていた。 「しんどい展開はなかったですね。激しいスクランブルも少なかったです。」 ガードプレイヤーやフットロックを狙うタイプが多い中でも、安定したトップゲームで対抗。IBJJF系の選手が好む“ボトムからの足関重視スタイル”を完全に封じた。

決勝戦 vs Guilherme Lucas Vale Fernandes(Icon Jiu-Jitsu Team)

そして迎えた決勝戦。試合は隣のマットに移動し、対戦相手はイギリスを拠点とするランキング3位のヨーロッパの強豪選手。 試合は開始直後、相手が引き込みを選択。為房は一瞬テイクダウンも狙ったが、それを防がれての展開となる。 「最初はちょっとテイクダウンでも欲しかったんですけど、それがダメで、引き込んできて。」 ここから、決勝戦の攻防が始まる——。 相手は素早く引き込み、シングルXポジションからフットロックを狙ってくる。 為房は冷静に対応し、大きなダメージはなかったものの、わずかに回転を許したことでアドバンテージを奪われた。 「全然大丈夫だったんですけど、ちょっと回りかけたのが良くなかった。形的にね、まあアドバンテージ入っちゃうよねっていう感じのフットロックでした。」 相手はそのまま下からの攻防を展開し、丁寧なガードワークで崩れない。準決勝ではフックでスイープを決めて勝ち上がっていた通り、ガード技術の高さが際立っていた。 「崩れなかったですね、アタックで。密着しすぎるのもダメだし、どこから崩そうか悩みました。」 相手のニーシールドやハーフバタフライでの防御は堅く、為房がパスガードを仕掛けるも、アドバンテージを得るには至らない。試合は徐々に相手の得意なリズムへと傾き始めた。 為房はハーフガードの攻防の中で、相手の特殊なスイープ技「ニーレバー(ジョン・ウェイン)」に捕まり、アドバンテージを奪われる。 さらに連携してフットロックへとつなげる巧妙な仕掛けを繰り出してきた。 「相手の組み手の握力が今までで一番強かった。めっちゃ強かったです。」 さらに相手はそのまま起き上がりからマトリックス的な動きでサドルエントリーを狙い、内ヒールへと連携。 為房は冷静に足の位置を切り替え、逆足で防御を構築しながら展開を立て直すも、アドバンテージの差は埋まらない。 「内ヒール狙ってきて、逆足突っ込んで違う展開にしてやってました。」 結果として、スイープとフットロックの2アドバンテージを相手に許し、スコア上では追いかける立場に。試合終盤、為房は勝負を懸けて上からの圧力を強めるが、相手のガードは依然として堅い。 崩しの糸口を探る中で、相手がクローズドガードを仕掛けてくる。 「最後クローズ入っちゃって、固められちゃって。持ち上げたんで相手がアホだったらそこからサバ折りみたいなバトル仕掛けてくれないかなと思ったんですけど、そんな上手くなかった。」 クローズドに捕まったままタイムアップ。試合はアドバンテージ2差で惜敗となり、準優勝という結果に終わった。

トーナメント総括 ― 海外5試合で得た確かな経験

今回の大会では計5試合をフルタイムで戦い抜いた。海外でこれほど多くの試合をこなすのは初めてだったという。 「1回ADCC予選の時は4試合ぐらいだったんですけど、5回はなかなか。全部フルタイムでした。」 各試合で共通していたのは、相手の多くがシットガードからのファルスリープやKガード、フットロックを軸にした“今のグラップリングのトレンド”を体現していたことだ。 「今回やった相手はみんなシットからファルスリープ、Kガードみたいな感じ。今の流行りのスタイルでしたね。」 その中で為房はトップから圧力をかけ、すべての相手を潰していくスタイルを貫いた。 決勝では惜敗したものの、全体を通して「トップから試合を支配する強さ」を改めて証明した大会となった。 決勝で見えた課題と次への展望 「もうちょっとパスの細かいところをやらないといけないし、脚関節に対しての対応ももう少しやる必要があります。」 決勝でのアドバンテージ差は、トップコントロール中心のスタイルにおける今後の課題を明確にした。 特に、ガードワークの巧みな相手に対してどう崩しを作るかが、次のステップへの鍵となる。 「決勝では脚関節に仕掛けられてアドバンを取られた。あの対応をもっと詰めれば、次は勝てると思います。」

次なる目標 ― ADCCトライアルへ

次の大舞台は、世界最高峰のノーギ大会「ADCCアジアトライアル」。まだエントリーはしていないものの、すでにその挑戦への意欲は固まっている。 「基本的にはそっち(ADCC)で結果を残したいという思いが強いです。」 IBJJFルールとは異なり、よりダイナミックな展開が求められるADCCルールは、為房のスタイルに適しているとも語る。「むしろそのルール用にスタイルを作ってます。僕のやり方的にもADCCルールのほうがやりやすいです。」 帰国と今後の準備 大会翌日の夜には帰国予定。短い休息ののち、すぐに次の挑戦に向けたトレーニングを再開するという。 「帰国は明日の夜に出発です。もうすぐ練習ですね。」

大会を通して得た経験と課題を糧に、次なるステージでの飛躍を誓う為房虎太郎。 ヨーロッパでの戦いを経て、その視線はすでに世界の頂点 ― ADCC本戦 ― へと向けられている。 「この経験を次に繋げたい。」 そう語る彼の言葉には、敗北から学ぶ謙虚さと、挑戦者としての確かな覚悟が込められていた。

Interview by Akira Hosokawa / 細川顕(JIU JITSU VOICE)

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