
5度目の海外遠征、未知のヨーロッパへ
インタビュー冒頭、吉永選手はこれまでの海外経験を振り返った。今回が通算5度目の海外遠征。これまで出場したのは、2023年の「ワールド・ノーギ」、柔術CON、そして茶帯時代のIBJJF WORLD、さらにアブダビで開催された「ADX」など。日本人選手の出場が珍しいADXにも挑戦しており、経験の幅はすでに広い。 ただし、今回の遠征はこれまでと異なり同行者もいない“単独遠征”という状況に、期待とともに不安もあったという。「まずたどり着けるのかなっていうのが一番の不安でした」と語り、空港到着後の動線すら未知数だったという。 英語は「全くできない」と本人が明かす通り、頼りにしたのは翻訳アプリとチャットツール、そしてGoogleマップのみ。それでも「なんとかなる」と信じ、一人でローマの地に降り立った。
現地到着から試合までの調整
現地入りは試合の2日前。普段の海外遠征でも1~2日前の到着を基本としており、過度な時差調整や練習は行わないスタイルだという。「現地で練習はしないタイプ」と断言し、体調を整えることを最優先にした。 また、減量もほとんど行っていない。普段から「ナチュラルで54~55kg前後」と語り、体重コントロールには自信を持つ。トレーニングもシンプルで、初動負荷トレーニングと自重トレーニングを中心に組み立てているという。「スパーリングメインで作っていく」という言葉からも、実戦感覚を重視する姿勢がうかがえる。 宿泊先は会場から電車で20分以内の距離に確保。費用を抑えながらもアクセスの良さを優先した。「安そうなところを探して、あまり気にせず選びました」と笑うが、限られた環境の中でも集中できるのは経験の積み重ねによるものだろう。
初戦 vs WANKI CHAE (Beast Wanki Bji)
試合初日は朝9時半開始。まだ会場の空気に慣れきらないうちに登場が決まる「第1試合」。この順番は多くの選手が苦手とするものだが、「相手も同じ条件」と気持ちを切り替えた。前夜は緊張からか午前3時には目が覚め、ほとんど眠れないまま会場入りしたという。 初戦の相手は“チェワンキー”選手。トーナメント表を見た瞬間、「インタビューで警戒していた選手として話してたのでデジャブだな」と感じたという。 かつてライト~フェザー級で戦っていた彼は、現在ルースターかライトフェザー級で活躍。2024年のワールドマスターでは2位に輝く実力者だ。 試合前、相手の映像研究も一定程度行ったという。「ある程度は研究しました」と語るが、あくまで想定にとどめ、柔軟に対応できるよう準備した。試合プランは極めてシンプル。「ダブルガードになったら相手が下になったときは上を取る。相手が立ったら自分が下になる」——この2つだけを徹底して臨んだ。 試合はチェワンキー選手が引き込みを選択。即座に吉永はトップから内ヒール(インサイドヒール)を仕掛けた。 本来、IBJJFルールではトップポジションからのフットロックはリスクを伴う。失敗すればスイープ2点を与えるため、多くの選手が避ける選択だ。しかし、彼は迷いなく狙いにいった。 その理由を「2-0なら気にせずいける。取られても取り返せばいい」と語る。スコアよりも先に、自らの技術を通して主導権を握ることを優先する。試合展開において“リスクを恐れない判断”ができるのは、これまでの海外経験と自信の表れでもあった。 試合はまさに電光石火の決着、試合開始からわずか15秒、「もう入った」と確信したという内ヒールの仕掛けが見事に決まり、完璧な一本勝ちを収めた。 「手応えはバッチリでした」と本人も振り返る通り、迷いのない動作で技を極めた。強豪チェワンキーを相手に“あっさり勝利”という展開に、周囲も驚きを隠せなかった。「強い相手という印象があったので、早く決まってありがたかった」と語る笑顔には、長年の経験からくる落ち着きが感じられた。
準決勝 vs WESLEI KELLISSON SILVA COSTA (Amazon School-Escola de Jiu Jitsu)
続く準決勝の相手は、ブラジルで開催されたノーギ大会の優勝者であり、ランキング1位の実力者ケリソン・シルバ・コスタ選手。 「名前は以前から見たことがありました」と語るように、世界的な舞台で活躍する選手であることは把握していたという。 試合はコスタ選手が引き込みを選択。吉永選手は上からプレッシャーをかけながら、隙を見て再びヒールを仕掛けた。 1回戦同様、トップポジションからの攻撃が決まる展開となり、開始4分でフィニッシュ。連続して内ヒールを決め、2試合連続の一本勝ちを飾った。 「相手が引き込んでくるタイプが多いので、上からの展開は多くなります」と冷静に分析。 また、上から仕掛ける際には“レッグドラッグ”の体勢を意識していると話す。「密着して潰す系のパスが好きで、その流れでヒールに入ることが多い」と技術的な流れを明かした。 IBJJFルール下でトップからのフットロックを成立させるにはリスクも大きいが、彼のヒールは精度とタイミングが際立っており、全く危なげのない勝利だった。
決勝までの5時間――孤独な時間を味方に
準決勝を終えた時点で午前11時前。決勝まではおよそ5〜6時間の空き時間があった。「朝9時半に試合して、次が4時半。5、6時間くらい空いてました」と語るように、長い待機が続いた。 ホテルに戻るには距離があり、また同行者もいない。吉永選手は「会場周辺を散歩して過ごしていました」と振り返る。昼食は会場前の飲食店で軽くパンとコーヒーを取り、あとはスマートフォンで通話をしたり、試合映像を振り返ったりしながらリラックスしたという。 孤独な時間をどう使うか――それも海外遠征における大きな課題だ。しかし吉永選手はその静かな時間を「落ち着く時間」として受け入れ、心身のリズムを整えた。
決勝戦 vs SHAY ANANDA MONTAGUE(ECJJA)
決勝の相手は、スコットランド出身のシェイン・モンテギュー選手。2年前の「ワールド・ノーギ」で一度対戦しており、そのときは吉永がヒールで勝利を収めている。シェインはその年の茶帯ムンジアル王者に輝ている。今回は実力をさらに磨いて戻ってきた。 「2年前以来の再戦。お互いイメージはある」と語るように、互いのスタイルを熟知した上での緊迫した試合となった。 序盤、シェインは吉永の得意なヒールを警戒し、スパインガードではなく距離を取ってシットガードから慎重に構える。これに対し吉永はギロチンチョークやクロスニーのアプローチを試みるも、「シェインがトップからのパスを許すことはない」と語るように、相手の防御を崩しきれなかった。「ギロチンも得意ではあるが、全然入らなかった」と苦戦を明かす。互いにスタンドとシットの間でポジションを入れ替えるシーンが何度も繰り返された。 試合終盤、吉永は得意の内ヒールをトップから狙う。しかし、シェインはその動きに呼応し、外側からカウンターの関節技を合わせてきた。 「本人は外ヒールではなくニーバー(膝十字)って言ってました」と説明するように、つま先を抱えて腰を突き出すような独特の形で決められた。映像では細部が見えにくかったが、「足首が決まっていて、逃げられないと思いました」と語る。 結果は惜しくも一本負け。試合はシェインの勝利で幕を閉じ、吉永は準優勝という結果を手にした。
1年ぶりの復帰戦――ヘルニアを乗り越えて
この大会は、吉永選手にとって「約1年ぶりの実戦復帰」でもあった。長く続いたヘルニアによる休養期間を経てのカムバック。「久々の試合だったので、やっぱり緊張しました」と率直な心境を語る。 それでも、世界トップレベルの舞台で2本勝ちを挙げ、決勝では強豪と互角に渡り合ったことは、大きな収穫だった。本人も「手応えはありました」と振り返り、長いブランクを感じさせないパフォーマンスで自らの成長を証明した。 ちなみにシェインもインスタグラムのインタビュー動画にて話していたが彼も膝の手術からの復帰戦で吉永を警戒していたようだ。
ノーギに懸ける覚悟と次なる挑戦
次の目標について尋ねられると、吉永選手は「ノーギ・ワールド」への出場を視野に入れていることを語った。エントリーはまだ完了していないものの、今後の参加を前向きに検討しているという。 「まだあまりエントリーが集まっていないけど、最後には集まると思う」と冷静に分析。今回の挑戦は一人ではなく、同じくトライフォース所属の澤田選手も出場予定だと話した。「澤田さんと一緒に出るので、ワンツーフィニッシュを目指したい」と力強い目標を掲げた。
ノーギへの傾倒 ― 転機となったクインテッド練習
ここ数年、吉永選手が特に力を入れているのがノーギのグラップリングだ。 その転機となったのは「クインテッド練習」への参加だったという。 「もともとノーギには興味があって、トライフォース連合としてクインテッドのための練習に参加したときに、改めてノーギの面白さに気づきました」と振り返る。 ノーギでは、ギ(道着あり)の試合と比べて「フィジカル差をそこまで感じない」と語り、自分の動きがより自然に出せる感覚があると説明。「ノーギのほうが決めを狙いやすく、自分のパフォーマンスが高い」と、自身にとっての最適解を見出している。 「競技としてどちらを選ぶか」という問いに対して、吉永選手は迷いなくノーギを選んだ理由を語った。 「動きの中で極めを狙うノーギの方が、自分のリズムや感覚に合っている」とし、「もしかしたらノーギのほうが自分に向いているのかもしれない」と素直な実感を述べた。 技術的な嗅覚や身体感覚を重視する吉永らしい選択だ。
目指す頂 ― ノーギ・ワールドとプロマッチ
ノーギを主戦場とする現在、吉永選手にとって最大の目標は「IBJJFノーギ・ワールド」だ。 「ルースター級ではノーギ・ワールドが最大のタイトルになります」と断言。今後はこの大会を毎年の中心に据え、さらなる成長を目指すという。 さらに、プロマッチへの出場にも意欲を見せた。「大きなプロマッチに呼んでもらえるのが理想」と語り、実力を証明する場を広げたい考えを示した。以前出場した「ADX」では61kg級で戦ったが、通常の階級は54kg。「ちょっときつかったですね」と苦笑しつつも、どの舞台でも自分のベストを尽くす姿勢を崩さない。 ノーギ・ワールドに向けて 静かな情熱を胸に、吉永力は次なる戦いへと歩みを進めている。
Interview by Akira Hosokawa / 細川顕(JIU JITSU VOICE)







